よくわかってない,ということ。

もうずいぶん前のことですが,自閉症スペクトラム特性をもつ青年の患者さんを就労支援におつなぎしたときの話です。

診断したり,ご自分の得意と苦手を知っていただいてりして,自分自身の強みを活かしてこれからいろいろチャレンジしてみよう! というところまでは診察室でできるんですが,具体的な就職活動となるとさすがに医療機関ではうまくお力になれないので,ハローワークさんとか障害者職業センターさんとか地域の就労支援センターさんとか,さまざまな就労支援機関と連携させていただくことになります。

就労に向けて動き始めるにあたって,就労支援を担当してくださるスタッフさんや親御さんもご本人と一緒に診察室に来てくださって,みんなでこれからの方向性について共通の意識をもつところから始まりました。

そこから先は診察にも定期的に通っていただきながら,就職に向けてどんなふうに動き始めたかも報告していただいたりして,医療と就労支援を並行して進めていくという感じ。


ご本人から「就労支援の担当の人に定期的に会いに行って,少しずつ話をしています」とお聞きして安心していたある日,その担当者さんから私のところへ電話が掛かってきました。

「じつは…僕,アスペルガーとか自閉症スペクトラムってよくわかってないんです…」

担当者さんの話の続きはこうでした。

紹介させていただいた青年とお話をしていて,「彼には力がある,彼にあった仕事なら今すぐにでも始められそうだ」と感じてくださったのですが,いざお仕事を紹介しようとすると,どうにも話が前に進まない。あの仕事は? こっちならどうか? と勧めれば勧めるほど本人からの反応が薄くなっていくので,「もしかして働く気がないのではないか?」と思えてきたというのです。

「本当に働きたいならもうちょっと積極的に返事をしてほしいし,でももしかしてこれが自閉症スペクトラムの特徴なのかと思ったり…わからなくなってきて思わずお電話してしまいました」と担当者さん。

彼には就労する意欲はあるけれどまだあまり自信がなくて,新しいものに飛び込んだりたくさんの中から選び出したりするのにはためらいがあるのではないかと私自身は考えているということ,就労に向けて活動すること自体がまだまだ不慣れなので,当面は定期的に就労について意識する時間をもつところからゆっくり取り組んでいただければ十分だということをお伝えしたら,少し安心してくださったようでした。


「自閉症スペクトラムってよくわからない」とお電話をいただいたとき,「え,まさか?」とちょっとビックリしてしまいました。

でも。

障害をもつ人たちの就労支援のプロであるこの担当者さんが「自閉症スペクトラムってよくわからない」と電話をくださったことの意味はとても大きいんじゃないのかな,と後から思い当たって。

障害者就労に長年取り組んでいらっしゃる方でも,自閉症スペクトラムについての情報はあまり持っていらっしゃらないということもそうだし,わからないことを「わからない」と電話してくださる真摯な気持ちで取り組んでくださっていることもそうだし。

もっともっと,職域の方々にも自閉症スペクトラムについて知っていただけるようにしないといけないな。
情報伝達不足を反省しました。

いろいろな課題がありますが,できることから少しずつ取り組んでいきたいと思います。

自閉症スペクトラム